主屋のすぐ裏に位置し、旅館内唯一の洋風意匠を持つ。間取りからして客室棟より後、広間棟より前に建設されたものであろう。まず入るとタイル張りの大きな洗面が目につく。
「水」「湯」の書かれたタイルのプレートが付いており、非常にレトロである。
底面には木の棒が並べてあり、隙間からは深めの排水口が見える。ものを落としたら取ることができないが、原始的な構造を残している。
このタイルは後で登場する小浴室のものと同じため、これも建設時から変わっていないのだろう。多少の変色は見受けられるものの、ひび割れが少なく比較的状態がよい。
洗面縁外側の緑色のタイルは、広間棟のものと柄は異なるが色が同じで、種類が近いのかもしれない。
洗面台(2021/8 吉宮) | 美しい蛇口周り(2021/8 吉宮) |
浴室部分(2021/8 吉宮) | 脱衣所部分(2021/8 吉宮) |
手前にある大きめの浴室は、脱衣所と浴室の間に仕切りがなく、段差で区切られている。窓は細かい縦長の折戸が並んでおり、これまた旧態を残している。これている部分も多いが、大事に使われているようで美しい。
新型のバランス釜が設置されており、快適であった。
天井は方形屋根のようになっており、しずくが垂れてこないようになっている。近年タイルを交換した部分があると云うが、意外に、ここまでちゃんと原形を残した浴室は珍しい。交換したのは、目地が黒い床のタイルであろう。
奥にある小さな浴室は、これまたタイル張りの美しい部屋であった。脱衣所と浴室が段差だけで隣接しており、たらいだけで体を洗っていた時代の設計がそのまま残っている。この風呂は、あたりのタイルがすべて竣工時のものらしく、その完璧な状態に驚かされる。
壁には向かい合って二箇所栓がついており、手前側は当時物の、ゴツい形のものであった。これも栓自体に「湯」「水」と書かれており、素晴らしい。
浴槽は内部もタイル張りで、建設当時から変化はなさそうである。浴槽内に段差が設けてあり、現代の浴槽よりも少し深めである。やはり湯に当たる部分はタイルが傷みやすいようで、水面近くは変色が多かったが、貴重な浴槽であることに変わりはない。
水蒸気がつきやすいところにある窓木製サッシの腐食が少ないのが、不思議である。
小浴室(2021/8 吉宮) | 古い蛇口(2021/8 吉宮) |
美しい内観(2021/8 吉宮) | 木製サッシ(2021/8 吉宮) | おそらく当時物の大浴室照明(2021/8 吉宮) |
内観(2021/8 吉宮) | 当時物の窓(2021/8 吉宮) |
窓部分や天井の仕舞いなど、全体的に洋風意匠の完成度が高く、この元旅籠にこのような建物があることは、非常に驚きであった。この浴室棟だけでも非常に見どころが多く、おもしろい。